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消費増税の誤謬

法人税と所得税を減税しても消費は増えない

90年代半ばまでは法人税と所得税が「基幹税」だった

 消費税増税の賛成派は「法人税や所得税の税収は景気に左右されやすいが、消費税は毎年10兆円以上の税収が続いており、経済動向に関係なく安定した財源だ」と主張する。

 確かに、財務省の「主要税目の税収(一般会計分)の推移」を見ると、国の法人税収は1989年の19.0兆円、所得税収は1991年の26.7兆円とバブル期にピークを迎えて、その後は減収している。2016年7月1日に発表された「2015年度の一般会計決算概要」によれば、15年度の法人税収は10兆8274億円、所得税収は17兆8071億円、消費税収は17兆4263億円だった(図19を参照)。

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 しかし、法人税が1980年代後半から減税されてきたことは既に述べたが、所得税についても1974~83年は最高税率が75%、刻みが19段階だったものを1999~2006年には最高税率が37%、刻みが4段階まで引き下げていたのだ。所得税の大幅な簡素化が行われた時期(1987~89年)に消費税が導入されたのは特筆すべき事項である(下記の画像を参照)。

 つまり、法人税や所得税の税収が減少したのはバブル崩壊後の長引く不況だけでなく、税率を引き下げてきたからとも言える。実際に、消費税が3%だった1990年代半ばまでは法人税と所得税こそが国の税収を支える「基幹税」だったのである。

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法人税と所得税を減税しても消費は増えない

 1980~90年代にかけて法人税と所得税が減税されてきた理由は、主に「富裕層の消費や投資を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていた。

 しかし、実際にワールド・ウェルス・レポートの調査によれば、日本で100万ドル(約1億2000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2015年の272万人へと10年間で100万人以上増加していて、法人税と所得税が減税されたぶんは消費や投資ではなく貯蓄に回されたのである(図20を参照)。

 所得の増加分のうち、消費支出が増える割合を「限界消費性向」と言うが、100万ドル以上の資産を持つ人が急増しても消費不況が解消されないのは、所得がある一定のレベルに達すると、それ以上収入が増えても消費に回す金額は増加しないことの証左ではないだろうか。

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 日経新聞は2016年2月に「年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は」というタイトルで、年収2500万円以上の所得税負担額が1999年の921.0万円から2014年の1204.3万円まで増加し、2017年には1225.1万円になると予測を発表した。

 コンサルタントの永江一石氏はこの記事を引用して、「高所得者はどんどん重税化している」「日本の金持ちは可哀想」などとブログで述べている。

 しかし、実際に所得税の負担率は年収70万円から年収1億円にかけては上昇していくが、それ以上所得が多くなると逆に減少する仕組みになっていて、年収1億円以上の「超富裕層」の所得税負担率はそれほど高くないのだ。この点は、所得が上がるほど負担率が低下していく消費税と対照的である(図21を参照)。

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労働人口が減少しても経済成長は可能である

 その上、法人税や所得税が景気に左右されやすいなら、単純に財政出動などの景気対策で経済成長を促せば良いだろう。こう主張すると必ず「日本は労働人口が減少しているからもう経済成長できない」と反論してくる者がいるが、では少子化が進行してから名目GDPが増加した中国についてはどう思うだろうか。

 中国は1979年から2015年にかけて「一人っ子政策」を実施して厳しい人口抑制策を行ってきたが、80年代の鄧小平時代には上海や広州などに経済技術開発区を作り、海外の企業を誘致して2000年以降に著しい経済成長を遂げることができた(日本・中国の出生率と名目GDPの推移は図22~23を参照)。

 とはいえ、所得格差は日本よりはるかに深刻なのでこうしたやり方を真似する必要はないが、少なくとも「労働人口が減少しているから経済成長できない」という主張は、日本で20年近く続いているデフレ不況を正当化する言い訳に過ぎないだろう。

 日本が経済成長しないのは、消費税を上げて政府の公共投資(公的固定資本形成)を削減するという緊縮財政が続けられているからである。

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所得税を増税しても富裕層の資産は海外流出しない

 「消費税を上げるより、所得税の累進性を高めるべき」との意見に対して、消費税増税の賛成派は「所得税の最高税率を引き上げると、富裕層の海外流出を招き、日本経済の活力が失われる」と反論している。だが仮に、日本の資産家が所得税を逃れようと10兆円のお金を海外に持ち出したとしても、日本円は海外で使用できないため、必ず外貨で両替する必要がある。

 両替行為が行われた結果、金融機関が10兆円の資産を日本に持つことになり、資産家が海外に持ち出すはずだったお金は結局、日本国内に残るのである。

 また、所得税の累進性が高かった1974~83年当時、所得税(75%)と住民税(18%)を合わせた最高税率は93%だったが、当時の日本で海外に逃げ出す富裕層は存在しただろうか。むしろ、所得格差の少ない「一億総中流社会」を形成し、安定的な経済成長を続けていたではないか。

 それに、所得税が高くて富裕層が日本から逃げ出すことを心配する人は、消費税が10%以上に引き上げられた際、税金に重みを感じて消費税が安いアメリカや、消費税が高くても社会保障が充実しているヨーロッパに移住しようと考える国民が増加する可能性もあることを懸念しないのだろうか。

 ただし、所得税の最高税率は2007年に37%から40%、2015年に45%へと近年引き上げられる傾向にある。そのため、今後は1987年から減税が繰り返されている法人税率を引き上げる方向に持っていくことが消費税増税を中止させる第一歩となるだろう。






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